天の神様にも内緒の 笹の葉陰で


    “明日は夏至。”
 

    *R15相当の、腐設定描写が出てきます。
     ご自身の判断でお読みくださいませ。



 さっき見たニュースで言ってたの
 明日は夏至なんだってね

 あ、そうなんだ♪

   一年で一番 昼の長い日
   一年で一番 夜の短い日

西欧では妖精たちが一晩中 草かげで踊るそうで。
その輪にうっかり踏み込むと、
一緒に踊れとなかなか解放してもらえない。
明け方になるころ やっと許してもらって帰ってみれば、
我が家も里もすっかり様変わりしていて。
あなたがいなくなってから、
何十年も経っているよと知らされるのだとか。


 夏の初めに妖怪噺たぁ、
 欧州の人たちも隅に置けないねぇ。(違)




うんざりするよな梅雨の長雨が続く地方もあれば、
もう明けたんだろうかというよな いいお日和が続いたり、
不意なこととて思い出したように激しい雨になったりと。
今年も相変わらずで、
何とも気まぐれな気候の続く このところだが。
陽が出さえすれば どんどんと気温も上がり、
うんざりするほどの すっかりと、
夏めきを感じられる今日この頃でもあったりし。

 「でもまあ、
  朝晩は過ごしやすい涼しい風が吹くから。」

 「うんうん、助かるよね。」

さすがに“寒い”というほどじゃあないけれど、
例えば お昼間についタンクトップなんぞでいて、
そのままで窓辺で涼んでいたりすると、
肌を冷やし過ぎて ぶるると震えてしまう程度には、
用心も要るかなぁという涼しさで。

 「イエス?」

すっかり暗い夜陰を背景に、
腰高窓の桟に腰掛け、今宵はまだ月が出てないなぁなんて、
首を伸ばすよにして外を見やってる。
そんなイエスの、
髪の陰へと紛れそうになっている
ちょっぴり薄い頬の輪郭線が、
何故だろか ブッダにはよそよそしく見えて。

 「…。」

名を呼んだのにこっちを向いてくれないからかな。
そのくらいで怯むほど、私、
甘えが過ぎての臆病者になったのだろか。
そんな想いが ちらと
喉の奥を爪の先でつねるよにして掠めたけれど。
玄関の戸締まりをして戻って来ただけ。
なのに 立ちすくんでる方が不審なくらいに、
実は間近なのだから。
顔を上げ、残り数歩という間合いをすたすたと詰めて。
彼の足元の先辺り、わざと一歩だけ残して座り込めば、

 「ぶ〜っだvv」

ふふーと悪戯っぽく、それでいてご満悦な微笑い方で、
やっとこちらを見やってくる彼で。
聞こえなかった振りをすれば、
もうもうもうと近くまで来てくれると、
さてはやっぱり見越していたらしく。
してやったりという それだろう笑顔がまた、
そうは見えぬほど無邪気で屈託がないから怒れもしない。
窓枠の片側にTシャツの背中を預け、
ちょっとばかりお行儀悪く
桟の上へ片足上げて座ってたイエスだったが。
そこから腰を浮かすと すぐにも身をかがめ、
さっき敷いたばかりの布団と窓との
わずかな間隙に四角く座る愛しい人へ、
まるで桟から落っこちたみたいになって、
そぉれと抱きつく。

 「わ…っ、ちょっとイエスったら。//////」

もうずんと空は暗く、夜も深まりつつあって。
することも とうになくなったし、
それより何より、
キミをばかり意識してしまって落ち着けない。
飛びついたそのまま、愛しいその身を両腕で抱きしめれば。
肩や腕や背中にきちんと機能的についた柔軟な筋肉が、
なのに柔らかな感触なの、
こちらもお揃いの、パジャマにしているTシャツ越しに、
優しい温みと一緒に伝わって来て。
背中のかいがら骨がちょっとだけ
たじろぐみたいに 盛り上がったのが、
まるで、海で見た 浜へと寄せる波の丘みたいで。
でもイエスを支えると、
そのままスルスルと収まって、何ごともなかったよう。
ちょうど鼻先になっていたブッダの耳元辺りで
深々と息を吸い込んで、
いい匂いだなぁって、うっとり微笑む。

 「……♪ ////////」

ちょっぴり高さのあったところから、
飛び降りるようにして抱きついて来られたせいで、
イエスの懐ろへ深々と
顔を埋める格好になってしまったブッダの側も、

 「〜〜〜。////////」

屈強精悍とまではいかぬ、
どうかすれば標準よりも やや痩せている彼ではあるが。
それでもこうして腕の中へ取り込まれると、
すっかりと安堵してしまうから不思議なもので。
肩も腕も広くて長くて、
懐ろも深くて居心地がよくて。
そこから感じるのは、
紛うことなく、何物からも守ってくれる頼もしさ。
力こぶでは自分の方が上だろが、
その力こぶをひたひたと充実させてくれる、
どんな脅威をも弾き飛ばすぞと思わせてくれ得る、
何とも言えない微熱や情やを
止めどなくそそいでくれるイエスであり。
その微熱に酔いしれておれば、
悪戯な唇がこちらの耳の縁をさわさわとくすぐって、

 「あ…。//////」

不意なくすぐったさに ひゃあ…と首をすくめた拍子、
甘い微熱がうなじを駆け上がって、螺髪の戒めをはさりと解いた。
まろやかな肩や背中へ、大河のようにあふれた深色の髪の見事さへ、

 「…綺麗だね。」

そうと運んだ張本人が、
それはうっとり見惚れてくれるのが、
憎たらしいやら、でもでも面映ゆいやらで。

 「いえす〜。////////」

どうしてくれるのと見上げれば、
どうしてほしい?と微笑いつつ、一番欲しいものをくれる人。
切れ長の玻璃の双眸 やんわり細め、
口ひげの下、表情豊かな口許が 薄く開いて声なく微笑えば、

 「あ…。/////」

日頃は無邪気にしか見えぬはずが、
何故だろか、ゆるやかな弧を描いたのが
妖冶な しどけなさをまとってみえて。
声を出さない“おいで”に誘われるまま、
瞼がゆるりと降りるのは、
もはや約束ごとのうちで怖くもなくて。
触れ合う直前にもう届く、肌の温みが微熱を生んで、
胸の鼓動に拍車をかける。
急くよな吐息が交ざり合い、
何か果実のように柔らかな唇同士が触れ合えば、
そこからはもう、言いようのない夢心地…。




     ◇◇



夏の訪のいに急かされたか、
しゃにむに進展してしまった感のあるお二人だが、
とはいえ、
そうそう夜ごと盛り上がってしまう…ということもなく。
イエスに“おいで〜”と呼ばれたブッダが、
よじよじ移動し、彼の懐ろへ落ち着いて。
そんな中、どちらかが シャツをつんつんと引くよな晩は。
そうと持ってくまでに、
含羞みを蹴り倒すための“えい”という踏ん切りが要るせいか。
おずおずが収まりどころを見つける格好、
ともすれば、それはそれは穏便な過ごしようになる。
望みへ応じて相手が衒いなく半裸になってくれること自体、
恋仲なのへと うっとり酔うには十分な、流れであり見栄えであるから。
それは愛しく麗しい、若しくは比類なく頼もしい人が、
キミにだけと晒してくれた肌に見入り、その懐ろへ頬寄せて。
素肌同士でい抱き合うその瞬間、
じわりと互いの身へ滲み浸透し合う微熱のせいで、
これ以上はない一体化だと気持ちは高揚。
それと同時に それはやさしい安堵をくれるから。
互いの眼差しに見とれたり、指先を搦め合ったり、
甘えるようなキスを交わし、
首から提げた指輪に触れつつ 他愛ないこと囁き合ううち、
どちらからともなく寝オチするほど 大人しいもの。

 「………ん。//////」

案外と、まだ横になる前からの
何げないキスに夢中になるあまり、
い抱き合う手に力が入りの、
もっともっとと くぅんとねだる蜜声へ
格別な甘さが増しのした晩のほが、
結句、熱い流れへなだれ込むこととなりやすく。

 「ん…っ、……んぅ。///////」

ブッダのふっくらと瑞々しい唇から離れがたくて、
イエスが幾度も幾度もとの蹂躙にかかれば。
果敢に応じてくれての もっともっとがつのるその狭間、
不意にざらりとしたものに舌先が触れ、
互いにハッとし、身を剥がす。
慣れのないものへは まだどこか、滑稽なくらいに未熟で青くて。
だがだが、それで怖じけづくほどに、
見栄ばかりで諦めのいい大人ではいられない。

 触れたいし触れて欲しい、
 独占したいし されたいのが止められぬ。

キミにだけだと許してくれた 白磁の肌へ、
傷ではなくての何かしら、跡を刻みたくもなるし。
キミが欲しいのと求めてくれた故の愛咬、
忘れたくない、余さず全て受け止めたいと。

 もつれ合うよに倒れ込み、
 もっと深く、もっといっぱい、
 捧げたい奪いたいと、もつれるように抱き合って。

どこもそこも余すことなく取り込みたいと、
指先でなんて もどかしい、
欲しい欲しいと囁くよう じかに唇を這わせれば。
吐息の微熱ごと練り込まれるような、
どこかもどかしげな熱さに絆され酔わされて。
時折 立つ水音に、頬が総身が熱くなり。
そのまま喰らってほしいと思うよな、
肌の奥底に押さえ込んでた、淫らな悦がどこかで目覚めて。
さあ解き放ってと 甘い指先 開き始める…






むせ返るような甘い香は、
その総身からじわりと滲む、それは甘やかな汗の匂い。

 「……ブッダ、大丈夫?」
 「ん…。////////」

総身を駆け巡るのだろう熱い感覚に、
唇が指先が、幾度もふるると震えては
堪え切れずに甘い声を上げかける気配が、
薄い暗がりの中でもありありと届く。
そのたび、敷布を千切らんばかりに引き掴み、
何とか必死に飲み込んで、耐える姿が痛々しくて。

 はあはあと息も荒いまま、
 少しだけ待ってと切れ切れに囁かれ

あっと我に返ったイエスであり。
何につけ我慢強いブッダが その限界まで頑張ってしまうのへ、
どうしていつも気づいてやれないものか。
触れることも憚られるほど、ふるるとその身が震えるのが、
見ているだけで胸が絞られ切なくなる。
窓からのほのかな明るみの中、
頬に耳朶、胸元までも赤くして。
深瑠璃の双眸も潤ませていて、
瞬きの拍子にかすかながら涙が弾けて。
よほどに息を詰めていたのか、
それは苦しそうに胸元あえがせていたものが、

 「…いえす。」

何とかようやく収まったのか、
そちらから手を延べてくれるので。
それへ怖ず怖ずと掴まれば、

 「…ごめんね。」

小さな声での囁きが聞こえて。

 「何で謝るの。/////」

ついつい怒ったように言い返せば、

  だってキミを不安にさせたもの、と

甘く掠れた声がそうと呟く。
たおやかな腕が、やさしい手が、
成りだけ大きい子供の手を取り、自身の頬へと導いてくれて。
大丈夫だよと微笑ってくれるのに、
それさえ歯痒いと つい駄々が出る不甲斐なさ。

 「辛いことなんだ、やっぱり。」
 「違うってば。//////」

まだ動くのが億劫そうなのに、そうまで言われてはと思うたか、
身を浮かせると肘で支えて、
ほどけたまんまの豊かな髪ごと、
ちょんちょんと寄って来てくれて。
そのままイエスの懐ろに収まる釈迦牟尼様で。

 「何て言えばいいのかな。///////」

あーうーと考えてみるものの、
そこはやっぱり説明に困ってしまう、
これはブッダの側の歯痒さであり。
深々としたキスの最中に、
つい舌先が触れ合えば、びくりと震えたりもするし。
ブッダの肌の格別な柔らかさに惹かれ、
唇で直接喰むようにという触れ方をせねば収まらぬのも。
押さえ込んだ恋人が示す、逃がれたいよな反射へ煽られ、
ついつい熱を高めてゆく歯止めの利かなさも。
自覚はまだなさげだが、
牡としての“求め”が芽生え始めている証拠だろうから、

 “もうちょっと、みたいかな?”

何がそう衝き動かすのかに直結した、
生々しくて判りやすい感覚が彼を襲えば。
それを耐えているのだと 告げるだけで済むのにね。
ゴールが見えているだけに、
そこはブッダの側ももどかしいが、
さりとてこればかりは…と、
胸のうちにて甘い苦笑が洩れるばかりであったりし。
不安そうに眉を下げてる愛しい人へ、
いい子いい子と頬の堅さを愛でながら、

 「前にも言ったでしょ?
  頑張ってこらえたくなる我慢もあるって。」

 「でも…。/////」

それでもやっぱり大変そうには違いないと、
自分が下した蹂躙の結果なだけに、
イエスの表情は曇るばかりで。
切れ長な目元が哀しそうにたわんでいるのが、
こんなときなのに ますますと愛おしく。
ついのこととて見とれておれば、

 「ブッダはいっぱい苦行を試して、
  辛いことには耐えられるようになったけど、」

くすぐったいことへは全然耐性がないままだったんで、
それで人一倍感じやすくて辛いんだよ、なんて。
眉をきゅうと寄せて言い切るご本人は、
本気も本気、至って真剣なのだろうけど。
それを聞かされる側は、

 「〜〜〜。///////」

可笑しいやら、そんな無垢さが愛おしいやらで
ますますと大変で。

 「ねえ、だから…。」

何か言いかかるのへ、先んじて

 「それは駄目。」

慈愛の人が言いたいことくらい、
特に考え込まずとも 予測もつくというもので。
容赦なしという語調で、ぴしゃりと“駄目だ”と言い放ち、
まだ少し妖冶な気怠さをまとったまま、
腕を上げると、イエスの頭を抱え込むよに抱き着いて、

 「私のこと、もう要らない? 我慢できる?」

自分でも“狡いなぁ”と思いつつ、でも。
こっちだってこれだけは譲れない。
それに、身を削ぐようなという我慢じゃないから、
そこはご容赦と腹をくくる。

 “どうせ、先ではもっと叱られようしね。//////”

こんな想いを何で黙ってたのと、
キミはやっぱり、真っ赤になって叱るのかなぁ。
ごめんねごめんねと言いつのり、自己嫌悪に向かわぬよう、
早く気づけばいいのになぁと、うっとり想っていたところ、

 「…ううん、出来ない。//////」

何かを振り払うみたいにかぶりを振り、
イエスのほうからも腕を延べ、
切ないほど甘い力込め、きゅうと抱きしめてくれながら、

 「ブッダのこと欲しいもの。」
 「…あ。//////」

聞いた側があっと言う間に赤くなるほど、
それははっきりと言い切った。

 「柔らかくて優しくて、
  あと、よく判らないけど此処がうずうずして。」

誓いの指輪ごと胸元を押さえて見せたが、
その正体はまだ掴めぬか。
焦れるように むずがるように眉を寄せ、

 「だから欲しいし、
  キスして触りたい気持ちがどうやっても収まらない。
  それに、」

駄々っ子みたいな言いようをしてから、
その勢いを ぐうと息ごと押しとどめ。
誰にも聞かれないよう、
世界中に内緒と言わんばかり
念入りに掠れさせた声で紡いだのが、

 「大好きなブッダが、
  今だけ私のものになってくれるのが、
  どれほど嬉しいか判る?」

ホントはそんなことを望んではいけない尊い人。
好きだって気づいてもらえただけで、
それを彼からも意識してくれているだけで
十分すぎるほど報われているのに。

 「こんなして抱き合うこと、私にだけ許してくれて。//////」

戒律も慎みもシャツと一緒に脱ぎ捨てて。
半裸になる恥ずかしさも、
甘い声が洩れてしまう辛さも晒してくれて。

 それがどれほどに特別で、
 価値あることかが分かる?、と

この微熱が届けとばかり、
こちらからも嫋やかな肢体を抱きすくめ、
豊かな髪の陰になっている
愛しい耳元へ、甘くやさしく囁けば。

 「当たり前でしょう?////////」

そんなの特別なんて言わないでよと、
含羞みに濡れたお声が返って来て、

 “イエスからそうまで思われているなんて、
  こちらこそどれほど嬉しいことか。///////”

せっかく収まった何かが、
またぞろ勢いを得てのこと、
なまめかしくも疼き始めてしまいそうで。

 困ったなぁ、でも、
 封じるなんて無理だしイヤだし、と

イエスの言いようではないけれど、
さんざん苦行で練り上げたはずの我慢強さも、
愛しい人を恋い焦がれる想いには こうまで勝てぬ。
暗がりも何の助けにならぬほど、
熟れたよな頬の赤みがなかなか去らず。
嬉しくて幸せな“困った”へ困惑しておいでの
そんな釈迦如来様へ、こんな一言はいかがだろうか。


  恋の山には 孔子も仆
(たお)






   〜Fine〜  14.06.20.


  *人を恋しくおもう情は、
   所詮 理性では解決出来ないものさという意味です。

   それにつけましても、
   あちこち手直ししてたら、
   夏至当日になってしまいましたよ。(う〜ん)
   こういう甘いの、
   これからは夜中にしか書けなくなるのね、
   むんむんと暑くなって。(とほほん)

  *というわけで、新しい章に入ります。
   のっけに番外というか、
   お題の連作じゃあないのは、
   まだちょっと流れへの整理がついてないからで。
   …なぁんて言うと、偉そうですが、
   いつだってそれほど細かい段取りなんてしないくせにネ。(笑)
   七夕関わりの一騒ぎ、もうちょっとお待ちを。

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